本郷源太(ほんごうげんた)
都内の高校に通う17歳。歴史をこよなく愛し、時間があれば博物館や遺跡めぐりをしている。
四條葵(しじょうあおい)
都内の高校に通う17歳。歴史が大の苦手。テストで赤点をとったことから幼なじみの源太に日本史を教えてもらうことに。
本郷かえで(ほんごうかえで)
源太の妹。兄の影響で歴史好きに!12歳にして古文書解読を日課にしている。
- 人類の歴史
- 旧石器時代の気候
- 旧石器時代の日本 ー大陸から移動してきた私たちの祖先ー
- 旧石器時代の暮らしー狩猟と石器ー
- 旧石器時代の遺跡
人類の歴史
旧石器時代の話をする前に、人類の歴史についてざっくり説明するね。地球の歴史はおよそ46億年で、類人猿(るいじんえん)が誕生したのがおよそ2千万年前だと考えられている。
類人猿って猿のこと?
類人猿とはヒトに近い種類のサルのことで、チンパンジーやゴリラ、オランウータンのこと(テナガザルを含めることもある)。ヒトも類人猿も大きな分類ではサルの仲間だから間違いではないよ。
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人類の進化
霊長類(れいちょうるい)とは、哺乳類(ほにゅうるい)の中のサルの仲間を意味するんだ。霊長類から類人猿が枝分かれして、さらにオランウータン、ゴリラと分かれていった。
ヒトに最も近いのはチンパンジー(ボノボとする説もあり)で、日本人に馴染みのあるニホンザルは分類上は遠い種類ということになるね。
ヒトとチンパンジーの共通祖先がおよそ1千万年前に誕生したと考えられている。約700万年前になると、人類の祖先である猿人(えんじん)が誕生してチンパンジーと枝分かれしたんだ。猿人の骨はアフリカ大陸でしか発見されていないので、人類発祥の地はアフリカだと考えられている。
類人猿(チンパンジー)と猿人(ヒト)は何が違うの?
大きな違いは直立二足歩行。直立で歩くことができた猿人は手が自由になったことで打製石器などの道具を使うようになり脳が発達したんだ。ヒトとチンパンジーのDNAは98%同じだとする説があるんだけど、チンパンジーよりもヒトのほうが約3倍脳が大きいらしい。
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サヘラントロプス・チャデンシス
2001年にアフリカで発見された化石人骨の年代測定を行ったところ、約700万年前と推定され、サヘラントロプス・チャデンシスと命名されたんだ。大腿骨の構造から二足歩行していたと考えられ、人類最古の祖先である可能性がでてきた。 これまで発見された猿人は、ラミダス猿人がおよそ440万年前、アウストラロピテクスがおよそ300万年前とされている。
初期の猿人であるサヘラントロプス・チャデンシスが約700万年前、ラミダス猿人(アルディピテクス・ラミダス)が約440万年前、アウストラロピテクス(アウストラロピテクス・アファレンシス)が約300万年前に誕生したとされ、原人では、ジャワ原人が約130万年前、北京原人が約70万年前、旧人の代表であるネアンデルタール人が約30万年前、新人の代表であるクロマニョン人が約20万年前とされている。現生人類(げんせいじんるい)の直接の祖先は新人(ホモ・サピエンス)なんだ。現生人類とは現在の人類のことだよ。
ホモ・サピエンスって、どういう意味?
ホモ・サピエンスの「ホモ」は「人」で、「サピエンス」は「賢い」という意味。学名(がくめい)といって、生物を分類するときに使用される世界共通の名前なんだ。進化の過程でたくさんの種が誕生したけど、現在生き残っている人類はぼくたちホモ・サピエンスだけなんだ。
ホモ・サピエンス以外の人類はみんな絶滅してしまったのね。
人類は猿人→原人→旧人→新人と段階的に進化したとされてきたけど、旧人と新人は別の種(もしくは同じ種類の別系統)で共存していたことが判明したので、最近では旧人という言葉は使われなくなっているね。
旧人が使用されないなら、ネアンデルタール人はどうなるの?
ネアンデルタール人がどのように誕生したのか不明だし、ぼくたちホモ・サピエンスとの関係もよくわかっていないんだけど、ドイツで発見されたハイデルベルク人(ハイデルベルゲンシス)がネアンデルタール人とホモ・サピエンスの共通祖先だとする説がある。
どうしてハイデルベルク人が共通祖先なの?
ハイデルベルク人とされる骨がヨーロッパやアフリカでも発見され、古いものはおよそ60万年前と推定されている。下顎(したあご)の特徴が原人に近く、脳の大きさもネアンデルタール人より小さいと推測されることから原人に分類されているんだ。アフリカで誕生したハイデルベルク人の一部がヨーロッパに渡りネアンデルタール人となり、アフリカに残ったハイデルベルク人からホモ・サピエンスが誕生して、世界各地に広がっていったと考えられている。あくまでもひとつの説だけどね。
これだけ科学が進んでも、わからないことがたくさんあるのね。
ネアンデルタール人のDNAを解析したところ、現代人のDNAの中にネアンデルタール人の遺伝子が数%入っていることが判明した。同じ祖先なら遺伝子が残っているのはおかしくないけど、祖先が違うなら、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスがどこかの時代で混血したことになるね。ネアンデルタール人のDNA解析を行ったスバンテ・ペーボさんは2022年ノーベル生理学・医学賞を受賞したよ。日本史では人類の進化はあまり出題されないので、予備知識としてこれだけ知っておけば十分だよ。
人類の進化(4段階) | 猿人→原人→旧人→新人。 |
現生人類の学名 | ホモ・サピエンス |
サヘラントロプス・チャデンシスとは | アフリカで発見された約700万年前の化石人骨で最古の人類。 |
新人とは | 現在の人類。学名はホモ・サピエンス。約20万年前にアフリカで誕生して世界に拡散した。 |
旧石器時代の気候
更新世と完新世
旧石器時代ってどんなイメージ?
原始人がマンモス追いかけてる?
そうだね。原始人は旧人や新人をさす言葉なんだ。マンモスは旧石器時代を象徴する動物だね。旧石器時代は文字通り石器が使われた時代。使い始めた時期は地域によって違うから、旧石器時代の始まりも違いがでる。世界最古の石器は260万年前とされてきたけど、330万年前とする石器も見つかっていて研究が進んでいるんだ。
日本最古の石器はどのくらい前なの?
長野県の遺跡からおよそ3万6千年前とされる石器が見つかっていて、さらに島根県や岩手県でもより古い年代とされる石器が発見されているんだ。このように日本の旧石器時代の始まりについては、多くの人が納得するような答えはでていないんだ。世界史の旧石器時代は約260万年前からで、日本の旧石器時代は約3万6千年前(3万8千年前とする説もあり)から始まったと考えられているけど、どちらも確定していないから無理に覚える必要はないよ。
OK!
旧石器時代はとても古い時代だから文字の記録がないんだ。人類が文字を使い始めたのは今からおよそ5000年前とされている。では、それ以前の時代のことを調べるにはどうしたらいいと思う。
ん~文字がないんでしょ。だったら物を調べるしかないかな。化石とか。
おっ!正解!その化石を調べる学問が地質学(ちしつがく)なんだ。化石以外にも地層(ちそう)や鉱物(こうぶつ)などを調べて、地球の構造や気候、生物の謎を解き明かしていくんだ。白亜紀やジュラ紀って聞いたことある?
恐竜がいた時代でしょ。
そう。地質学では化石を基に生物の進化を分類していて、これを地質時代(ちしつじだい)と呼んでいる。大きな分類として先カンブリア時代、古生代、中生代、新生代の4つの時代があるんだ。各時代はさらに細かく分類されていて(先カンブリア時代と古生代は省略)、恐竜が生きていたジュラ紀は中生代の中期で白亜紀は後期にあたり、恐竜が滅亡したあとが新生代。新生代は「古第三期」「新第三期」「第四紀」の3つに分類され、哺乳類が分布を広げ繁栄した時代が「古第三期」と「新第三期」で、258万年前~現在にいたる人類繁栄の時代が「第四紀」なんだ。
約258万年前~現在までが地質学の「第四紀」なんでしょ。だとすると世界の旧石器時代の始まりが約260万年前で、日本の旧石器時代の始まりが約3万6千年前だから「第四紀」=「旧石器時代」ってことでいいの?
もう少し聞いて!「第四紀」は2つに分類されていて、最初が更新世(こうしんせい)で次の時代が完新世(かんしんせい)。旧石器時代は更新世にあたるんだ。
もうっ!どうしてそんなに細かく分けるの?面倒くさ~い!
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地質学の時代区分(地質時代)
地質学では地層や化石生物を基準に時代を分類していて、約258万年前~現在までを第四紀(だいよんき)と呼んでいる。さらに、第四紀は更新世、完新世に分類され、約258万年前~約1万2千年前が更新世で、約1万2千年前~現在までが完新世。第四紀の大半は更新世が占めているんだ。旧石器時代は地質学の更新世!ここはよく出題されるのでしっかり覚えてね。
ややこしいけど、更新世はテストにでるよ!地質学の更新世は旧石器時代で、完新世は縄文時代から現在までだからセットで覚えて。更新世と完新世を逆に答えるケアレスミスをしないように簡単な覚え方を紹介するよ。更新世と完新世は交換(更完)できない!更が前で完が後。
なんかおやじギャグっぽいけど・・・交換(更完)できないね!よし覚えた!
氷河時代
旧石器時代の気候は寒冷で氷河時代(ひょうがじだい)と呼ばれているんだ。地球の長い歴史の中で氷河時代は3~4回あったと考えられていて、一番最近の氷河時代は約260万年前に始まったとされている。
すごい寒そう!氷の世界って感じだけど、防寒着もないのにどうやって生活していたの。
氷河時代といっても、ずっと寒い訳ではないよ。更新世の氷河時代は気温が低い氷期(ひょうき)と比較的温暖な間氷期(かんぴょうき)が交互に訪れたんだ。氷期と氷期の間だから間氷期!覚えやすいでしょ。氷期で一番寒かったときは、平均気温が今より7度ほど低かったと考えられている。
7度?もっと寒いと思った。ということは森林とかもあったんだ。
そうだね。地球の両極は極寒だけど、その他の地域には森林や草原があったと思うよ。今からおよそ7万年前に氷期が始まり(諸説あり)2万年前が最も寒かったとされている。そこから少しずつ暖かくなり1万年ほど前に氷期が終わったと考えられているんだ。最後の氷期だから最終氷期(さいしゅうひょうき)とも呼ばれている。氷期が終わったので現在は間氷期にあたるんだ。
えっ!現在は間氷期って、今も氷河時代なの?
そう!寒冷な気候が続き広い範囲に氷床(ひょうしょう)が存在しているのが氷河時代。氷床とは厚い氷が地表面を覆っている状態のこと。現在も北極や南極、グリーンランドに氷床があるよね。だから氷河時代。
へ~知らなかった!あっそれと就職氷河期とかで使われる氷河期ってどうゆう意味?氷河時代と氷河期の違いは?
氷河期と氷期は同じ意味。つまり、氷河時代の中で寒冷な期間が氷河期ということになる。
なるほど。
ミランコビッチサイクル
学者のミランコビッチは、太陽からの日射量は地球の自転と公転によって変化し、その日射量の変化が地球の気候を周期的に変動させると考えたんだ。これをミランコビッチサイクルと呼んでいる。ミランコビッチの理論と氷床の研究、海底の堆積物の調査などによって過去100万年については10万年周期で氷期と間氷期が訪れたことがわかったんだ。つまり、氷期と間氷期1セットの期間は約10万年ということだね。最終氷期が7万年前に始まり1万年前に終わったとすると、現在の間氷期は約4万年(残り3万年)続くことになり、次の氷期はおよそ3万年後ということになる。
更新世とは | 地質学の時代区分で第四紀の最初の時代。約258万年前~約1万2千年前。旧石器時代にあたる。 |
更新世の氷河時代の特徴は | 更新世の氷河時代は気温が低い期間と比較的温暖な期間が交互に訪れた。 |
氷期とは | 更新世の氷河時代で気温が低い期間。 |
間氷期とは | 更新世の氷河時代で比較的温暖な期間。 |
旧石器時代の日本 ー大陸から移動してきた私たちの祖先ー
約2万年前が最も寒かったと説明したけど、このときの海面は今よりも最大で140メートルも低かったと推測されているんだ。
どうして海面が低くなったの?
寒いと雪が降るよね。降った雪は積もって氷となり、氷は溶けずに徐々に高くなるから相対的に海面は低くなる。逆に暖かくなると氷は溶ける。溶けた氷は水になって海に流れ込む。だから海面が上昇する。
140メートルも低いって凄いね。
なので、日本列島は大陸と陸続きになったと説明されているんだけど、本当に陸でつながっていたかは不明な部分が多い。北の津軽海峡と南の対馬海峡は浅い部分でも水深がおよそ130メートルもあるそうだから、陸続きにならなかったのでは?との指摘もあるんだ。旧石器時代の海面が140メートル低いというのはあくまで最大値だから、実際は110メートルだったかも知れない。その場合は陸続きにはならない。
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大陸と陸続きだった旧石器時代の日本
旧石器時代の日本は北海道とユーラシア大陸が陸続きで、瀬戸内海や関門海峡は存在せず、本州と四国、九州も陸でつながっていた。北海道と本州、日本と朝鮮半島が陸続きだったかはよくわかっていないんだ。
陸続きにならなかったとしても結氷(けっぴょう)した可能性はあると考えられている。
結氷って何?
結氷は表面が凍ること。海の水は塩分を含んでいるので凍りにくいんだけど、塩分濃度が低いとオホーツク海のように凍るらしい。陸続きにならなかったとしても結氷によって氷の道ができたと推測されているんだ。海を渡らなくても移動できるから大型の動物が日本に入ってきて、その動物を追って人類も日本にやってきたと考えられ、その時期は遺跡などの調査から、およそ3万8千年前~3万6千年前と推測されている。このとき渡来した人類は新人なんだ。
人類の進化ででてきた新人ね。
そう!新人はぼくたちの祖先であるホモ・サピエンスのこと。
日本で発見された旧石器時代の化石人骨はすべて新人のものなので、日本には猿人や原人はいなかったと考えられている。
そうなんだ。猿人や原人がいなかったと言われるとなんか残念。
旧石器時代の暮らしー狩猟と石器ー
旧石器時代の大型動物ってマンモスの他には何がいたの?
北方からマンモス、ヘラジカ、ヒグマ、南方からナウマンゾウやオオツノジカが日本にやってきたんだ。現在は北海道にしか生息しないヒグマも、この時代は本州にも居たことがわかっている。ぼくたちの祖先はこれらの動物を狩猟して食糧にしていたんだ。1948年長野県野尻湖でナウマンゾウの歯が発見され、その後の調査で頭骨など、8万点を超える化石が発見された。ナウマンゾウの骨は日本各地で見つかっているけど、これだけ大量にでたのは野尻湖だけなんだ。
ナウマンゾウ、野尻湖、長野県はセットでおぼえてね。地図で出題されることがあるから、長野県の場所を地図で答えられるようにね。
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マンモス
マンモスは約400万年前~1万年前まで生息していたゾウの仲間なんだ。複数の種類があるそうだけど、一般的にマンモスといえばケナガマンモス(ウーリーマンモス)をさすことが多い。全身を覆う長い毛と巨大な2本の牙が特徴で、大きさは現在のゾウとほぼ同じ。気候変動で草原が減り主食の草が少なくなったことが絶滅の原因と考えられているけど、人間が乱獲したとする説もあるんだ。
マンモスやナウマンゾウって大きいでしょ!狩りをするのも命がけよね。
陥し穴やぬかるみに追い込んで動きを止めてから、石槍(いしやり)などで仕留めたと考えられている。
なるほど頭いい!ご先祖さまは肉食だったのね。
旧石器時代の人たちってどんな家に住んでたの?
この時代はまだ家はないよ。狩猟と採集で暮らしていたから、10人程度のグループをつくり、動物や植物を求めて一定のエリアを移動していたと考えられている。定住生活ではないので、簡易的なテントや洞窟(どうくつ)、洞穴(どうけつ、ほらあな)などを利用していたようだよ。
さっき石槍でマンモスを狩猟したって言ってたけど、他にどんな道具を使っていたの?
旧石器時代という名称のとおり武器や生活の道具として石器を使っていたんだけど、この時代は石を打ち欠いたシンプルな打製石器(だせいせっき)なんだ。
石を打ち欠いたってどういうこと?
硬い岩盤(がんばん)に石を叩きつけたり、石どうしをぶつけたりすること。このようにして欠けた石を石器として使っていたんだ。先端の尖った(とがった)石器や、物を削ったり解体したりする石器もあって、用途に合わせて使い分けていたみたいだね。旧石器時代の遺跡からは武器として使用された尖頭器(せんとうき)や細石器(さいせっき)、動物の皮を剥ぐナイフ形石器、物を砕く握槌(にぎりつち)、伐採用の石斧(いしおの、せきふ)が出土している。
それぞれの石器には別名もあるよ。ナイフ形石器は石刃(せきじん)やブレイド、握槌はハンドアックス、尖頭器はポイント、細石器はマイクロリス。
えー!これ覚えなきゃいけないの・・・無理。
石器の名前や使い方は絵とセットにすると頭に入りやすいよ。
旧石器時代 打製石器の種類 | ||||
---|---|---|---|---|
ナイフ形石器、石刃、ブレイド | 握槌、ハンドアックス | 石斧 | 尖頭器、ポイント | 細石器、マイクロリス |
木を削ったり、動物の皮を はいだり、肉を切るために使用。 | 動物の骨や木を打ち砕いたり、 土を掘るときに使用。 | 木の伐採などに使用。 | 槍先につけた狩猟用の石器で 突き刺して使用。 | 槍先に溝や穴をほりそこに 細石刃(さいせきじん) を埋め込んだ狩猟用の石器。 細石刃は小型の石刃。 消耗した細石刃を取り替えて 替え刃のようにして使用した。 |
うん。これならいけるかも!
マンモスとは | 旧石器時代に北方から日本に移動してきた大型動物。 |
ナウマンゾウとは | 旧石器時代に南方から日本に移動してきた大型動物。 |
ナウマンゾウの骨が大量に発見された湖は | 野尻湖。 |
その湖のある都道府県は | 長野県。 |
旧石器時代の人の住居は | 簡易的なテントや洞窟、洞穴などを利用していた。 |
打製石器とは | 旧石器時代に使用された石器。石を打ち欠いたシンプルな石器。 |
ブレイドの別名は | ナイフ形石器、石刃。 |
ハンドアックスの別名は | 握槌。 |
ポイントの別名は | 尖頭器。 |
マイクロリスの別名は | 細石器。 |
旧石器時代の遺跡
旧石器時代は文字の記録がないという話をしたよね。そのとき葵は「文字がないなら物を調べるしかないかな。化石とか」って言ったの覚えてる?
もちろん!だから地質学が重要なんでしょ。
そう!地質学はもちろん重要なんだけど、古い時代の物を調べるという点では考古学(こうこがく)も同じぐらい重要なんだ。
考古学という言葉は聞いたことがあるけど、どんなものなのかはわからない。
考古学とは遺跡(いせき)や遺物(いぶつ)を研究する学問で、遺物とは遺跡から発掘された化石人骨や石器、土器のことだよ。発掘された物を調べることで、当時の人たちの暮らしがわかるんだ。旧石器時代の遺跡からはたくさんの遺物が発見されている。
旧石器時代の遺跡っていくつぐらいあるの?
日本で発見された旧石器時代の遺跡は1万以上あるそうだよ。
やだ~そんなにあるの!
もちろん全部覚える必要はないよ。テストに出題される重要な遺跡はほぼ決まっているから、これから紹介するよ。最も重要で出題率が高い遺跡が岩宿遺跡(いわじゅくいせき)。
どうして岩宿遺跡が重要なの?
日本で最初に発見された旧石器時代の遺跡なんだ。1946年(昭和21年)に相沢忠洋(あいざわただひろ)が群馬県の地層(関東ローム層)から旧石器時代の打製石器を発見したことで、日本にも旧石器時代に人が暮らしていたことがわかったんだ。 相沢忠洋は考古学を研究していた人なんだよ。
相沢さんお手柄ね!でも関東ローム層って何?
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関東ローム層の赤土
関東平野を覆っている赤土の地層を関東ローム層と呼んでいる。関東平野は火山灰の堆積によって形成されているんだけど、火山灰に含まれる鉄分が酸化して赤褐色になることから赤土と呼ばれているんだ。
研究者はたくさんいたはずなのにどうしてもっと前に旧石器時代の打製石器を発見できなかったの?
堆積物は下から上につもっていくから古い時代の地層ほど下にあるんだ。当時の考古学では縄文時代以前、日本列島に人はいなかったという考えが通説になっていたから、縄文時代の地層よりも下にあった赤土の層は発掘調査されなかった。その赤土の中から石器が発見されたから仰天!しかも発掘したのは考古学者ではなく一般人!当初は信じない学者も多かったらしいよ。相沢忠洋と明治大学が共同で調査を行い複数の石器が発見され、その後の調査でも多数の石器が見つかりそれまでの常識が覆されたんだ。この場所は現在岩宿遺跡として国の史跡に指定されている。岩宿遺跡から発掘された石器は、岩宿博物館、明治大学博物館で展示されているよ。
思い込みで発掘すらしてなかったんだ。それじゃ見つからないよね。常識にとらわれず行動した相沢さんは凄いね。
旧石器時代の遺跡で試験によく出題されるのは岩宿遺跡。岩宿遺跡と相沢忠洋、関東ローム層はセットで覚えてね。それと、岩宿遺跡は群馬県にあるから地図でも答えられるようにね。
岩宿遺跡だけ覚えればいいの?
重要な遺跡がいくつかあるから紹介するね。まずは北海道の白滝遺跡(しらたきいせき)と置戸安住遺跡(おけとあずみいせき)。どちらも石器の原材料である黒曜石(こくようせき)の産地で大量の細石刃が出土したんだ。
黒曜石ってなに?
火山が噴火したときにマグマが冷えて固まったものが火山岩で、黒曜石はその火山岩の一種なんだ。ガラス質で割ると刃のように鋭くなるため石器として使用された。黒曜石については縄文時代で詳しく説明するね。白滝遺跡郡からは細石刃など700万点を超える石器が見つかっていて、破片も出土していることから、大量の石器がここでつくられたと推測されている。北海道では旧石器時代の終わりごろに大陸から細石刃が伝わり多くの細石器がつくられたんだ。
白滝遺跡や置戸安住遺跡は、石器の製造工場だったのかな?
工場は大げさだけど、加工場であった可能性はあるね。黒曜石の産地は限られているから、白滝遺跡や置戸安住遺跡周辺には貴重な黒曜石を求め人が集まったんだろうね。
次は化石人骨が発見された遺跡。人骨はそこに人が居た証拠だからとても重要なんだ。沖縄県の山下町第一洞穴遺跡(やましたちょうだいいちどうけついせき)から発掘された化石人骨は、年代測定でおよそ3万2千年前のものと推定され、山下洞人(やましたどうじん)と命名された。この山下洞人が日本最古の化石人骨なんだ。
沖縄県の白保竿根田原遺跡(しらほさおねたばる)から発掘された化石人骨が白保人(しらほじん)。全身骨格がほぼ残っていて、およそ2万7千年前と推定された。沖縄県の港川遺跡(みなとがわいせき)から発掘された化石人骨が港川人(みなとがわじん)。こちらも全身骨格がほぼ残っていて、およそ1万8千年前と測定された。
静岡県の根堅遺跡(ねがたいせき)から発掘された化石人骨が浜北人(はまきたじん)で、およそ1万8千年前。
なんで沖縄が多いの?
日本列島は酸性土壌なので骨が溶けてしまうけど、沖縄の場合はサンゴ礁の石灰岩が広く分布していて、石灰岩は炭酸カルシウムを含むアルカリ性なので酸化を防いでくれるそうなんだ。だから、骨が溶けずに残っているということらしい。
なるほどね。それなら今後も旧石器時代の化石人骨が発見される可能性があるよね。あっ!これ以上見つかったら覚える遺跡が増えるから困る!私が卒業してからにしてね。
都道府県 | 遺跡名 | 化石人骨 | ||
---|---|---|---|---|
群馬県 | 岩宿遺跡 | 人骨なし | ||
北海道 | 白滝遺跡 | 人骨なし | ||
北海道 | 置戸安住遺跡 | 人骨なし | ||
沖縄県 | 山下町第一洞穴遺跡 | 山下洞人 | ||
沖縄県 | 白保竿根田原遺跡 | 白保人 | ||
沖縄県 | 港川遺跡 | 港川人 | ||
静岡県 | 根堅遺跡 | 浜北人 |
遺跡は都道府県(地図)とセットでおぼえてね。それと、化石人骨の名称も答えられるようにね。
日本で最初に発見された旧石器時代の遺跡は | 岩宿遺跡。 |
その遺跡のある都道府県は | 群馬県。 |
その遺跡を発見した人物は | 相沢忠洋。 |
その人物が石器を発見した赤土層の名称は | 関東ローム層。 |
北海道にある旧石器時代の代表的な遺跡は | 白滝遺跡と置戸安住遺跡。 |
その遺跡から大量に発見された石器は | 細石刃もしくは細石器。 |
化石人骨が発見された沖縄県の旧石器時代の遺跡は | 山下町第一洞穴遺跡、白保竿根田原遺跡、港川遺跡。 |
化石人骨が発見された静岡県の旧石器時代の遺跡は | 根堅遺跡。 |
旧石器時代 -小テスト-
旧石器時代に日本に渡ってきた人類について正しいものを1つ選んでください。
- (a)大陸から猿人が渡来して日本に定住した。
- (b)新人はわたしたちの祖先であるホモ・サピエンス。
- (c)新人の代表はネアンデルタール人。
- (d)人類が日本に渡来した時期はおよそ1万2千年前である。
答えはこちら
- 正解(b)
- (a)猿人ではなく新人。
- (c)ネアンデルタール人ではなくクロマニョン人。
- (d)人類が日本に渡来した時期は、およそ3万8千年前~3万6千年前と推測されている。
更新世の説明で正しいものを1つ選んでください。
- (a)およそ1万年前から現在までの期間が更新世である。
- (b)地質学の更新世は縄文時代である。
- (c)完新世の次が更新世。
- (d)旧石器時代は地質学の更新世にあたる。
答えはこちら
- 正解(d)
- (a)更新世ではなく完新世。
- (b)地質学の更新世は旧石器時代。
- (c)更新世の次が完新世。
氷河時代の説明で間違っているものを1つ選んでください。
- (a)最後の氷河時代は今からおよそ260万年前に終わった。
- (b)氷河時代で比較的温暖な時期が間氷期。
- (c)氷期と間氷期は交互に訪れた。
- (d)およそ1万年前に最後の氷期が終わった。
答えはこちら
- 正解(a)
- (a)最後の氷河時代は今からおよそ260万年前に始まり現在まで続いているので「260万年前に終わった」は間違い。
旧石器時代の日本について間違っているものを1つ選んでください。
- (a)本州と四国、九州は陸続きであった。
- (b)北海道とユーラシア大陸は陸続きであった。
- (c)海面が最大で140m高く本州と九州は陸続きであった。
- (d)旧石器時代は現在よりも気温が低かった。
答えはこちら
- 正解(c)
- (c)海面が最大で140m低くなったので「高く」は間違い。
旧石器時代に日本に移動してきた大型動物について正しいものを1つ選んでください。
- (a)北方からマンモスとナウマンゾウが移動してきた。
- (b)北方からマンモスが、南方からはナウマンゾウが移動してきた。
- (c)南方からオオツノジカとマンモスが移動してきた。
- (d)南方からマンモスが移動してきた。
答えはこちら
- 正解(b)
- 北方からマンモスとヘラジカが南方からナウマンゾウとオオツノジカが移動してきたと考えられているので(a)(c)(d)は間違っている。
打製石器の説明で間違っているものを2つ選んでください。
- (a)石刃は動物の皮をはぐときに使用した。
- (b)細石器は槍先に細石刃を埋め込んだ石器で木の伐採に使用した。
- (c)握槌は先端が鋭く尖っていて動物の肉を切るために使用した。
- (d)尖頭器は狩猟用の石器である。
答えはこちら
- 正解(b)と(c)
- (b)細石器は木の伐採ではなく狩猟に使用した。
- (c)握槌は動物の骨や木を打ち砕いたり、土を掘るときに使用した。
日本で最初に発見された旧石器時代の遺跡について、正しいものの組み合わせを(1)~(6)の中から1つ選んでください。
- (a)三内丸山遺跡
- (b)港川遺跡
- (c)岩宿遺跡
- (d)吉野ヶ里遺跡
- (1)a-e
- (2)b-h
- (3)c-f
- (4)d-g
- (5)b-e
- (6)c-g
答えはこちら
- 正解(6)
- eは栃木県、fは埼玉県、gは群馬県、hは山梨県。日本で最初に発見された旧石器時代の遺跡は群馬県の岩宿遺跡なので(6)が正解。
1948年ナウマンゾウの骨が発見された場所はどこでしょうか。正しいものの組み合わせを(1)~(6)の中から1つ選んでください。
- (a)野尻湖
- (b)阿寒湖
- (c)諏訪湖
- (d)榛名湖
- (1)a-f
- (2)b-g
- (3)c-e
- (4)d-h
- (5)a-e
- (6)c-f
答えはこちら
- 正解(1)
- eは群馬県、fは長野県、hは岐阜県、gは山梨県。1948年にナウマンゾウの骨が発見された場所は長野県野尻湖なので(1)が正解。
参考文献
- 詳説日本史改訂版 山川出版
- 最新日本史 明成社
- 高等学校日本史B改訂版 清水書院
- センター試験過去問レビュー日本史B 河合出版
- 東大の日本史27カ年[第6版] 教学社
- 旧石器時代ガイドブック 新泉社
- 遺跡から調べよう!(1)旧石器・縄文時代 童心社
- 教科書の絵と写真で見る日本の歴史資料集 1 旧石器時代~古墳時代 岩崎書店
- 人と動物の日本史図鑑 1 旧石器時代から弥生時代 少年写真新聞社
- 旧石器時代の起源と系譜 雄山閣
- 復元イラストでみる!人類の進化と旧石器・縄文人のくらし 雄山閣
- 人類の進化大百科-おどろきの700万年 偕成社
- 人類進化の700万年 講談社
- 相沢忠洋―「岩宿」の発見 幻の旧石器をもとめて 日本図書センター
- 野尻湖のナウマンゾウ―市民参加で氷河時代をさぐる 新日本出版社
- はじめての考古学 筑摩書房
画像提供、画像撮影地
※爆点日本史編集部が撮影した写真および提供写真は博物館様、関係者の皆様から許可をいただき掲載しています。